4月初旬、仕事を辞めたすぐ後に気晴らしに友人と台湾旅行へ行こうとツアーを申し込み、同時にパスポートを申請した。
パスポートが出来上がる直前に娘が病気になりツアーはキャンセルしてしまったが、アメリカに行くことになったのでパスポート申請は無駄ではなかった。
サンフランシスコ行きのチケットを購入し、出発の前の週だったか、旅行社から電話がかかってきた。
「estaの申請はされましたか?」
20年も渡米していない私は何のことかわからず固まった。
90日以内のアメリカへの渡航はVISAの必要はないが、estaという、入国カードと同じ役割をする電子渡航認証システムへの申請と申請料14ドルが必要とのこと。
9.11の同時多発テロ以降に始まった制度らしく、それがないと入国ができないのだとか。
知らなかった…。
サンフランシスコ到着翌日に娘と合流し、その2日後に帰国する計画になった。
ホテルを探したが、予想以上の物価の高さに驚いた。
サンフランシスコはアメリカで一番物価が高いらしく(現地の人から聞いたので間違いない)、2万円以下のホテルだと殆どがトイレとバスが共同だった。
娘と合流する前日は、私ひとり…あまりにももったいなくて、空港内で一晩過ごすことにした。
サンフランシスコ空港は24時間稼働している大きな空港なので、どうにかなるだろう。
娘と合流し帰国便に乗るまでの2日間…たった2泊だけど、トイレ・バスが共同なのに4〜5万円も払うなんてあまりにもったいない。
以前から利用してみたかったAirbnb(民泊)で安いところを探した。
若い頃ゴールデンゲートプリッジを渡った山の向こうに、2週間ほど滞在したことがある。
日本で知り合ったアメリカ人女性の家に泊めてもらっていたある日、彼女が新聞を片手に慌てた様子で言った。
「エンペラー・ヒロヒトが亡くなったってよ!」
エンペラー・ヒロヒトって誰だよ?と思ったら、昭和天皇のことだった。
…ってことは、30年ぶりのサンフランシスコか。
平成の初めと終わりに(厳密には平成は31年までだけど)サンフランシスコに行くことになるなんて。
私は一度行ったら、よほど気に入らない限り再び見て回りたいとは思わないのだけど、娘にとっては初めての場所なので帰国までの2日間は観光することにしていた。
しかし安いAirbnbは、交通の便が悪かったり遠かったり。
2人分の電車代を計算すると結構な金額になるので、Uber(ウーバー)を使うことにし、ダウンタウンから遠いが安いところを予約。
そこに2泊して、チェックアウト後は夜中の便での帰国となるので、夕方まで荷物を預かってもらえるようお願いした。
2泊で約16,000円だった。
そして出発。
福岡から台北を経由し、サンフランシスコに到着。
日頃からやましいことがなくても運転中に警察車両を見るとガチガチになってしまう私は、久しぶりの入国審査でも必要以上に緊張していた。
滞在期間が極端に短いので、渡航目的が観光だとまずい気がして、留学中の娘が病気になったので迎えにきたと伝えた。
入国管理官のおじさんは、一見、気難しそうに見えたが、話してみると気さくな人で、最後は笑顔でスタンプを押してくれた。
何の問題もなくアメリカに入国。
ホッとして出口に向かっている途中…、違和感を覚えた。
その場でバッグを下ろし、座り込んで中身をくまなく探した。
ない…
ない!
ないーーーーー!!!
どこを探しても、全財産の入ったサイフがなかった。
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