イタリア時間　その３

小さな駅で列車を降りた。
憧れの地、シシリー島…映画｢ゴッド･ファーザー｣の中で、主役のゴッド･ファーザー（若い頃の役はロバート・デニーロ、晩年の役はマーロン・ブラント）の生まれ故郷である。
列車の着く町であるので、映画の中で出てくるゴッド･ファーザーの生まれ故郷コルレオーネ村のような田舎ではないだろうが、きっとどこで写真を撮ってもキレイなんだろうなぁと勝手に想像を膨らませていた。
しかし期待を胸に駅の外へ出たとき…私のシシリーに抱いていたイメージは大きく崩れ落ちる。

 

 

 

 

 

 

きっ…汚い。
いや、汚いと言えば語弊があるな。
しかし確かにローマやフィレンツェのような都会とは全く違い、道にはゴミが落ちているし、それ以上に建物や町並みが整備されておらず、埃っぽく、あまり良い印象とは言えない。
歩けば歩くほど、何か暗いイメージである。

ヨーロッパはその国々でイメージが全く違ってきたりするのだけど、東欧に近ければ近いほど、先進諸国と比べてなんとも言えない暗い感じがあった。
日本で言えばまるで３０年ぐらい昔（つまり私が子どもの頃）ぐらいにタイムスリップしたような、人々が必死に生きている町、生活感が溢れる町、そんな風に見えた。
それはそれで悪くはないのだけど、勝手に抱いていた私のイメージとのギャップが大きすぎる。
思い切り田舎なら、それはまた情緒を楽しめるものである。
田舎だけど、少しだけ有名な土地であるために、訪れる観光客の数は中途半端。
主な産業といえば漁業で、イタリア北部が大きく発展する中、シシリーがそれに付いていけず取り残されてしまったという感じ。

通りを歩けば、肩からライフルを提げた兵士たちに遭遇。
ライフルなんて久々だなぁ…、スイスでこんなヤツらにイヤな思いをさせられたし、そう言えば、オーストリアでもこんな人たちをよく見かけた。
日本でも警察などを見ると、やましいことはなくともソワソワしてしまう私なので、当然ライフルなんてものを見ると落ち着かない。
エライとこに来てしまったなぁという感じである。
いや、そんなことよりも、とりあえず今夜の宿を決めないことには観光もできない。
かと言って、こんな田舎町、言葉が通じるわけもないだろうから、電話をかける気にさえならなかった。
地図を片手に、重い荷物をひきずりながら、安宿を求めて歩き回る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小さなホテルへ入り、部屋があるかどうかを身振り手振りで聞いてみる（そんなんで通じるのか？）。
英語は通じないが、見るからに旅行者である私が何を聞こうとしているのかを、相手もすぐに察知してくれた。
部屋はあったものの、金額を聞くと私の予算をはるかにオーバーしている。
通じない英語で値切ってはみるが、それがまた通じない。
更に英語でひとつずつ数字を言ってみるが、それさえも通じないんじゃあ何を言ってもわからないのも納得ではある。
フロントデスクに置いてあった電卓を借りて、私の予算を打ち込み、相手に見せるとやっと通じたものの、首を横に振った。
あぁ、ダメか…少しずつ値段を上げながら食い下がるがそれもダメ。
仕方ないなと諦めたところで、イタリア語で何とか言いながら、手書きの地図とホテルらしい名前の書かれたメモを渡された。
どうも他の安宿を紹介してくれているらしい。
ラッキー♪とばかりに、そこを目指す。
それほど遠くない場所にあったそのホテルらしきものは…はっきり言って、ごく普通のアパートの一室で、しかもイタリア人家族が住んでおり、余った一部屋をリーズナブルなお値段で貸してくれるらしい。
オイオイ…完全にホームスティではないか…。
結局、私はそこへ泊まることになった。

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