「甥っ子R」の続きです。
Rの彼女は、大人っぽいニットのワンピースに黒のレギンス、靴はピンヒールのブーティ、バッグは豹柄、ロングヘアにばっちりメイク。
ふむふむ・・・今どきの女の子だなぁといった印象。
突然やってきた甥っ子カップルに、
「えっ?なに?もしかして結婚するとか?」なんて尋ねてみたが、
「えっ?いや、まだそんな…」と戸惑い気味のR。
彼女の車の運転席にRが乗り込んだ。
「あっ?免許いつ取ったと?」
「4ヶ月ぐらい前。」
当然のように彼女が助手席に座り、母と私たち親子は後部座席へ。
後ろからふたりの様子を眺めながら、何がどうなっているんだろう…と不思議な感じだった。
中華料理店に着いてからは、母と私から質問の嵐だった。
彼女は23歳。
県外から福岡へ来て、ひとり暮らし。
今年、大学を卒業し、北九州で介護の仕事に就いた。
会社の旅行先でRと出会い、5ヶ月前に付き合いだしたらしい。
「あんたたち、初めてじゃなかろ?」の母の質問に、一同が固まった。
「なっ…なによ?初めてって…」と私が言うと(これが精一杯の質問だった)
「付き合うの。ふたりとも前に付き合った人とかおったやろ?」
「当たり前やん!そんなこと訊かんどきーよ!」
とまぁ、当人たちが答える前に、質問の内容にドキドキしてしった。
料理がくるたびに、私が大皿からみんなに取り分けてあげていたのだけど、途中から彼女がすすんでやってくれた。
あら…なかなか気が利くやん。
「Rって、ぜんぜん喋らんやろ?」と訊くと
「えっ?普通に喋りますよ。」とにっこり。
福岡と北九州。
結構離れているのだけど、週に1~2回は会っているとのこと。
車を持っていないRは、JRの鈍行で1時間以上もかけて会いに行き、よく手料理をご馳走になっているだとか。
翌日はふたりとも、仕事が休みなので、母の家に泊めて欲しいと言ってきたらしい。
承諾したものの、母は早朝から健康のために新聞配達をしていて(80歳まで続けるらしい)、3時半に起きるので(配達は5時半ぐらいからなんだけど、せっかちなもので)、結局うちに泊まることになった。
Rの両親(つまり私の兄夫婦)は離婚したが、一緒に住んでいるRの母親は家事を殆どやらない人で、自宅は汚いからと、彼女を招いたことはないらしい。
Rの父親とは、本音を話せるほど仲よくはないらしく(確かに兄はRが全く喋ってくれないと言っていた)、彼女がいることさえ伝えてはいなかった。
兄弟ともそれほど仲良くはないRは(次男が半年以上前に恋人と別れたことさえ知らなかった)、長い間、家族の中で孤立していた。
私はそれを、心を開かないRに問題があるんじゃないかと思っていた。
食事が終わり、実家で母が車から降りた。
彼女が慌てて私に、
「おばあちゃんは、(私の家に)一緒に来られないんですか?」
私が頷くと同時に彼女は車から降りて、深々と頭を下げ、母に丁寧に挨拶をした。
「Rたちからもらったけん、あんた持って帰りなさい。」と玄関から大きなポインセチアの鉢植えを持ってきて、私に渡そうとする母。
「お母さんがもらったんやろ?私はいいよ。」と言うと、母は他にももらったからいいと言う。
私の記憶が正しければ、Rが母に何かをプレゼントしたことは過去にはなかった。
きっと、彼女の提案で買ったものなんだろう。
ふたりともニッコリ笑って、私が持ち帰るのを承諾してくれた。
我が家へ泊まったRと彼女。
朝、私が朝の支度をしているときに、二人ともきちんと起きて、布団を畳んでいた。
玄関にはふたりの靴がきちんと揃えてあった。
私が仕事へ出掛けるときは、ふたり揃って玄関まで見送ってくれた。
Rは変わった。
ビックリするほど変わった。
こんな一面があったなんて、実の両親でも知らないと思う。
見かけとは違う、家庭的な彼女ができたお蔭なんだろう。
長男で、みんなから可愛がられ、わがまま放題に育ってきたR。
会うたびにやりたいことが変わり、何度会っても、蚊の鳴くような小さな声で質問に答える程度の会話が精一杯。
正直言って、まともな大人にはなれないんじゃないかと思っていた。
女が男で変わるように、男も女で変わる典型を見た感じがした。
いや、変わると言うよりも、本当のRの姿を引き出してくれたんだと思う。
「Rのおばあちゃんに会いたい」と彼女が言ったのは本当なんだろう。
介護の仕事をしているから、会ってみたかったんだと思う。
いや、それ以前に、Rには母方の祖父もいる。
両親や兄弟や祖父のことよりも、きっと、“ばあちゃん”のことを彼女に話したからこそ、会いたいということになったに違いない。
それほど遠くに住んでいるわけではないのに、1年近くも会っていなかった母とR。
それでもきっと、母の、Rを信じる気持ちが彼に届いていたんだと思う。
きっと、これを読んでいる人は、こんなこと大したことではないと思うかもしれない。
でも、本当に長い間、頑ななまでに周囲との接触を拒んできたRを見てきた私にとっては大きな出来事だった。
ずっと彼を理解していなかったことがわかり、自分の愚かさを改めて思い知らされた。
その人の一面を見ただけで、全てを判断してはいけないと思った。
今はきっと、本当の姿を見せていないだけなのかもしれないのに。
完全に『箱』に入った状態で、相手の全てを知ったつもりで接していた私に、一番問題があったんだと思う。
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コメント
R君はおばあちゃんやkaoちゃんみたいな
お世話やきの”おばさん”がいて幸せだわ。
私もそんな子だったもん。
おばあちゃんは全然異なるけれど
たぶんどっか自分の内にあるものと同じものを
持ってることをR君に感じてたのかもね。
人が人に惹かれる要因ってそうだもんね。
ええ、話や~
どうなるかはわからんけど、女のために愚痴も言わずしっかり働き出したら本物。
ええ話やね~(涙)
感動しました^^
Rくんを信じ続けたおばあちゃんにも。
おばあちゃんを思うRくんにも。
幸せになって欲しいですね☆
私も、感動しました。
ほんとにココロがあったかくなるお話でした。
人間はやはり、一人では生きていけないものなのだと思います。
人と人とのかかわりあいって、難しいけどあったかい。
いいお話が聞けて、私もココロがホッとしました。
口数の少ない人というは、誤解を受けやすいと思います。
もっとコミニケーションしたらいいのに、損しちゃうよ、と思う人が知りあいにもいます。
でも、自分をさらけ出せる人に出会えてよかったですね。
彼女の影響で周りの人への表現も変わられたのでしょう。
お礼のメモは彼女の筆跡?
誠実さが伝わる文字ですね。
お久しぶりです。
いつもそーと読むだけなんだけど・・・・
心が暖かくとても幸せな気分になりました。
ありがとう。
コメントせずにはいられなかった・・。
::Rosaさん::
はい、世話好きのおば・・・おねえさんです^^
兄弟3人ともあまり喋らない方なんだけど、Rは極端でね。
たまに来ることはあっても、数時間ぐらいでひとりだけ帰ってしまうような子で。
そんなRだったので、女の子と付き合うのは難しいだろうって思っていたんだけど、今回のことで、繊細ではあるけれど、極フツーの男の子なんだってことがわかったわ。
人ってね、本当に面白いな~と思ったよ。
::kspawsさん::
とりあえず、去年就職して、もう1年経っちゃったかな~。
それだけでも信じられないです・・・。
::banさん::
ありがと~~。
私も感動しましたわ~。
::ナナコさん::
伝えなくとも、心の中ではお互いを信頼しきっていたんですよね。
できれば、私もそうでありたかった・・・
幸せになってほしいです。
それが一番の、おばあちゃん孝行ですから。
::ましゃさん::
本当に人とかかわるって、難しい。
でも、ひとりでは生きていけないよね。
私も、Beを産むときは、親や親戚と縁を切るつもりで実家を出たんですが、今、生まれ育った町に帰ってこれて、本当に良かったと思っています。
わかってくれる人がいるって、ありがたいですね。
::sakiさん::
仕事から帰ると、彼女からの手紙がダイニングテーブルにあったとBeが喜んでいたんですが、あとから私宛の手紙をパソコンデスクの上で発見して、ビックリしました。
周囲から見て、もっとこうすればいいのに・・・と思うことはいっぱいあります。
きっと不器用なんでしょうね。
それがマイナスでもあり、本当の誠実さが見えたとき、大きなプラスにもなるんだと思います^^
::うたちゃん::
お久しぶり~♪
コメント、ありがとう。
だめよ~そ~~~っと読んでちゃ~~!!
お元気かしら?
もうずいぶん会ってないけど。
今年中に会えるといいなぁ。
読みながら、「Kaoちゃんのお母さんは R君に対してずっと箱の外に出続けていたんだろうな」って思っていたら、最後に 箱の話がでていて、「あ、やっぱり Kaoちゃんもこの本読んでいたのね」って思いました。
この、箱 って本はすごいね。私もいつの間にか箱に入ってることが多いなって思う。
ええ話やね。
::さっちゃん::
箱の本。
うちの会社では定番になってるのよ。
本を出した会社の日本代表が、うちの事務所にたまに遊びにくるしね。
私は思い切り、箱に入ってることが多い気がする。
だから愚痴が多い(´A`。)グスン
わかっちゃいるけど、なかなかね~・・・
kaoさん、お久しぶりです。
すごくいい話でした。
お母様が、甥子さんの性質をよくわかってった、そして甥子さんもそれをわかっていたっていうの、本当にいいですよね。涙が出そうになりました。
きっと、わかりあえる二人なんでしょうね。
人って、見えない部分がたくさんあって、それを垣間見せてくれた時(いい面だったら)、感動しますよね。
::ボンさん::
本当にお久しぶりです~。
元気でしたか?
涙が出そうになったなんて・・・その言葉に私が感動です。
本当のRをわかってくれる人が肉親にいたことが、彼の中での唯一の救いだったと思います。
見えない部分だからこそ、わかってくれる人にだけ見せたい気もしますね。
私には残念ながら、そんな部分はありませんが・・・