だんだんと、ここでの暮らしにも慣れてきた。
大人数の収容者の中にいくつかの“仲良しグループ”があり、私を含む数人は一匹狼だったが、日が経つにつれ、ある中南米系の人たちのグループと言葉を交わすようになった。
スペイン語を聞くことが多かったロス・アンジェルスに滞在したときに、テキストを買って少しだけ勉強していたので、少しだけ相手の言っていることがわかって嬉しかった。
とは言っても、私がわかるスペイン語と言えば挨拶や数、簡単な単語ぐらいだったので、その範囲でコミュニケーションを図った。
子供の頃によくやった“25”というゲーム(各自が縦横5マスずつのます目に1~25の数字を好きな順に書き、数字を読み上げながら消して先に5列が消された方が勝ちのビンゴゲームのようなもの)を教えて、みんなで楽しんだこともあった。
仲良しグループの中の数人が、コーヒーのために置いてあるクリーム(スジャータのみたいなやつ)の蓋を剥がし、中身を舐めているのには驚いた。
なぜそんなことをするのか聞くと、「おいしいから」と言う。
なんとなく生活レベルの差を感じた。
私が入所して2日目か3日目くらいに、1人のブラックの女の子が入ってきて、私と同室になった。
彼女はカリブ海に浮かぶ島セントルシア(Saint Lucia)出身で、同じくらいの年齢だったこともあり、すぐに仲良しになった。
その翌日にはもう1人、グレナダ(Grenada)から来た16歳のブラックの女の子がまた同じ部屋へ…私の部屋は満室になった。
どちらも英語を話すのだけど、グレナダの子は訛りだか滑舌がはっきりしないのか、何を言っているのかさっぱりわからない。
また、私も日本語訛りであるので、相手に理解されず、キレイな発音のセント・ルシアの子に通訳をしてもらい会話をした。
グレナダの子には驚かされることが多かった。
男に騙され、いや、半ば無理やりに関係を迫られ、未婚で生んだ子を国に残しカナダへやってきた。
私が最も驚いたのは、着替えをする際、開けっ放しのドアの正面で下着まで脱いで素っ裸になったことだった。
恥ずかしいとかそんな感情は起きないんだろうか…
グラナダの人がみんなそんな感じなのか、それとも彼女が少し変わっているのかはわからなかったが、セントルシアの子曰く、彼女には脳の発達障害があったようだ。
レストランのオーナー夫妻がつけてくれた弁護士は、私と会わないまま、色々と動いてくれていた。
オーナーの奥さんからの電話で、私やレストラン側に「勝ち目」はなく、このままでは強制送還になってしまうということを聞かされた。
なるべく穏便に済ませるには、強制送還が決まってしまう前に、自主的に帰国することが一番望ましいと言われ、それに従うことにした。
慣れると収容所での暮らしもそれほど悪くはなかった。
まるで寮生活でもしているような、そんな感じで、最後の方は割と楽しく過ごせていたため、そこを去るのが悲しくなってしまった。
仲良くなった監視のオジサンは「こんなところで会いたくなかったね。」と笑った。
ちなみに日本人で収容されたのは私が初めてだったらしい。
結局、8日間の勾留だった。
自主的に帰国する前に、裁判の決着がつくまで、2週間ほどだったか身元引受人を申し出てくれたレストランオーナー夫妻の家で過ごした。
逃亡を防ぐために、外へは1歩も出てはいけないということだったので、退屈な毎日だった。
そして、帰国の日。
バンクーバー経由で帰ることになったが、飛行機に乗り込む直前まで監視の人を付けられた。
パスポートは返してもらえず、飛行機に乗り込むときに、監視の人がキャビン・アテンダントに手渡した。
バンクーバーに到着すると、あちらでも監視の人が待ち受けており、さきほどのキャビン・アテンダントがその人にまた私のパスポートを手渡す。
そして数時間後、成田行きのJALに乗り込む寸前でやっとパスポートを返してもらえた。
こうして、私の11ヶ月間に及ぶアメリカ大陸珍道中の旅が終わった。
飛行機のシートに座るとすぐに死んだように眠った。
どんな夢を見たのかは覚えていないが、とにかく長い長い眠りにつき、目が覚めたときは成田到着の30分前だった。
今回改めて17年前のことを振り返ったのだけど、今更ながら本当にどうしようもないやつだったんだなと我ながら呆れてしまう。
だって成田行きの飛行機の中で目が覚めた瞬間に思い浮かんだのが、日本に帰ってこれた感動とかそんなことじゃなくて…
「あぁ、機内食、食べ損ねたわ。」
全然、反省してないじゃん(*´Д`)=3ハァ・・・
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コメント
やっと、最終回だ!
いつも楽しみに楽しみにみていました。
しかし、すごい経験。
今でも、レストランオーナー夫妻の方とは
連絡をとりあっているんですか?
そして、もうアメリカへは入国できるのかな?
確か8年でしたっけ?
再度、入国できるのは。
写真があるということは、カメラも返してもらえたと
いうことですね。無事に帰ってこれて何よりです。
ホッとしました。
::ミカさん::
早速のコメント、ありがとうございまーす!
レストランの方とは連絡は取っていません。
アメリカへは、その後2度ほど入国してますよ^^
カナダには行ってないけど、そちらも問題ないはずです。
自主的に帰ってきたことで、その事件(?)自体が消滅したらしいですよ。
写真は、帰国直前にレストランで撮ったものだったと思います。
軟禁状態だったのだけど、帰ることが裁判で決定したときには身元引受人に全ての責任が託されたので、結構自由だったりしたんですよ。
いや~ほんと、お騒がせしました!
うわぁ~~!本当に波瀾万丈ですねっっ!!
何か映画の中のお話みたいですね。。。ステキですっっ( ̄ー ̄)☆
今まで何ヶ国くらい行かれたんですかぁ~??
凄い体験しましたね・・・(良いか悪いかは別としてw)
面白く読ませていただきました。
そしてblog3周年おめでとうございます!
beちゃんも大きくなりましたねーー。
これからも波乱万丈記事を楽しみにしています☆
自主帰国でよかったね、USでは、間違えなく追放やろう。
まあ、パスポートに傷がつかんでよかったたい。
いったん傷がついたら、あとあと大変やけんね。
2周年おめでとうございます!!
2周年の節目にこの話題を選ぶなんて(笑)
ハラハラして読破してしまいましたよ・・・
あぁ無事こうしてblogしててくれて良かったと勝手にホッとしてしまいました。
これからも楽しみにしてます♪
またまたドキドキしながら読ませていただきました☆kaoさんって色々な経験をしてきて、そして今は子育てを楽しみながら仕事もこなし家事をこなし、家の中のインテリアも手作りして素敵だし☆本当、憧れます(*´υ`*)
こんばんは。
強制送還と自主帰国か…勉強になりました。
レストランのオーナーは良い人ですね~、自分がその立場だったら弁護士つけてとかまでできるかな、と思っちゃいました。
何はともあれ無事帰国されてよかったです(機内食はなんだったんでしょうね・笑)
::Mutsumiさん::
ありがとうございます。
でも、全然ステキじゃないですよ~。
私みたいなバカタレ、なかなかいませんよね。
>今まで何ヶ国くらい行かれたんですかぁ~??
25カ国、行きましたが、ヨーロッパは小さな国が多いので、そこで数稼いでるって感じです。
::ぼのむちゃん::
明らかに良い体験ではないけど、学ぶこと多かったよ。
全てにおいて、舐めてかかってたからね。
このくらいのことがないと、なかなかショックを受けないほど厚かましいバカ女だったもので。
ぼのむちゃ~~ん!
3周年じゃなくて、2周年だわよ。
まっ、当然3周年までは頑張るけどさ。
これからも、よろしくね。
::kspawsさん::
カナダに行く前は、アメリカで働きたかったんですよ。
でもアメリカ人に止められて、それでカナダへ行ったわけです。
強制送還にならなくて、ほんと良かったですよ。
お陰で、パスポートも戸籍(?)もキレイです♪
::鯨のシッポさん::
2周年というのを意識したわけじゃないんですけどね。
全く計画性のない私ですから、未だに行き当たりばったりで、書いてみたら意外と長くなっちゃって、我ながらビックリです。
ドキドキしてもらって、ありがとうございます。
あの時、逃亡でも図っていたら、カナダで野垂れ死にしてたかもしれません。
大人しくしてて、よかった・・・
::カズママさん::
いつも、ありがとうございまーす!
確かに色んな経験をしましたが、全て私のバカさが原因ですので、恥ずかしいです・・・
仕事も家事も結構手抜きなんですよ。(あっ、いかんなぁ・・・仕事はとりあえず必死にやってます)
::ゆったり人さん::
いや~ほんとに帰国できて良かったです。
レストランの方々には心配かけちゃったんですが、結局、営業停止にもならずに済んだようでした。
機内食は、何だったんでしょう。
未だに気になってます(笑)
kaoさん、日本人で初めてってあたりがすげー!
今はそういう人、珍しくもなさそうですけどね。
ところでその後、kaoさんはアメリカ大陸にすんなりは入れるの?
今でもマークされてるのかな?
::banさん::
大体日本人ってその辺きっちりしてる人が多いでしょ。
アメリカとかだと結構多いみたいで、私の知ってる人も、ドラッグやって車運転して、事故って、強制送還なったらしい人がいたなぁ。
怖いわぁ。
アメリカ大陸はOKだわよ。
カナダはわからんけど、アメリカ、メキシコはOKどした。
んん・・・。すごい武勇伝ですねぇ~。
よっ!日本人初っ!!(笑)
他にもkaoさんのやんちゃ話ないですか~?(笑)
::ふりっぱーさん::
内容が内容ですからね・・・日本人初と言われると、それほど悪いことだったんだって、今更ながら反省です・・・。
やんちゃ話、まだまだ沢山ありますけど、バカ丸出しなんで小出しにしていきます。