Nちゃんの帰国日。
二人で向き合って朝食を食べた。
メニューはごはんと味噌汁、焼き魚、大根と豚肉の煮物、数日前から漬け込んでいた卵黄の醤油漬け…そして中央には辛子明太子。
Nちゃんとの最後の食事だったが、とくに話すこともなかった。
ただただ、やっと彼女から解放されることが本当に嬉しかった。
前の晩にようやくパッキングが終わり…預ける荷物が3個、機内に持ち込む荷物が4個の計7個。
機内には4個も持ち込めないんじゃないの?と何度も聞いたが、大丈夫だと言う。
そのうちの一つには、例の写真集をはじめ、コンサートで応援に使ったうちわや旗が何本も入っている。
折れたりしたら嫌なので機内に持ち込むんだそうだ。
空港には同じ便で帰国する学生たちが九州各地から20人ほど集まった。
その子たちと比べても、Nちゃんの荷物がダントツで多かった。
チェックインを済ませ、楽しそうに立ち話をしている子供たちを眺めている時、見送りに来ていた高校の先生方から話しかけられ、Nちゃん受け入れのお礼を言われた。
私は、高校の対応にも不満がたくさんあった。
帰国の前の月に、ホームステイ受け入れ先の保護者を招いて表彰とお茶会が開かれた際、たまたま隣の席に座った日本語の先生に抗議をしたことがある。
留学生の日本語クラスは週に1度程度しかなく、しかも留学生たちの日本語レベルはバラバラのため、一人の留学生にかかりきりになると、他の1〜2名の生徒は自習になる。
娘のクラスメイトのオーストラリア人留学生は、独学で日本語の読み書きの能力が高いレベルに達していたため、問題なく普通の授業も受けられていたが、Nちゃんのような子は、体育など日本語がわからなくても受けられる授業以外は、別室で自習する日々だった。
これはどこの国でも同じだが、留学さえすれば、その国の言語を話せるようになると勘違いして大した勉強もせずに渡航し、そして大した進歩もなく留学を終える子があまりに多い。
留学生を受け入れる学校なら、どんなレベルの子が来ても対応できるくらいのシステムの構築が必要なんじゃないか。家で勉強する癖をつけるために、宿題などを出す必要もあったと思う。
日本語の先生は私に謝罪したが、謝ってほしいのではなく、その問題をどうにかする努力をしてほしかった。
そんなことを再び空港でも訴えた。
今回のNちゃんの留学が、結局のところ勉強ではなくコンサートなどの遊びが中心になってしまったことが本当に残念でならないと先生方に伝えると、代わる代わる謝罪された。
「そういうことではなく、今後の留学生のために学校も変わる必要があると思います」
こんなことを先生方に言っても仕方ないとは思ったが、言わずにはいれなかった。
話の流れで、Nちゃんの担任の先生が話しはじめた。
「先日、学校最終日に全校生徒の前でNちゃんが作文を読んだのですが、その最初の言葉が、『私はコンサートに行くために日本に来ました』だったんです…それ以降は何を言っているのか全くわかりませんでしたが、それだけが聞き取れました。そして学校の机に油性マジックでサインをして帰りました…すぐに他の生徒に消させましたが…」
それを聞いて、呆れてしまいため息しか出なかった。
そして、最後のお別れの時、「帰ったらちゃんと勉強しなさいよ」と声をかけると、うんうんとニコニコ顔でうなづきながらNちゃんが言った。
「ちゃんとしてください!」
「はっ?」
「ちゃんとしてください!」
「えっ?」
「ごはんつくってください!」
「なに?意味がわからない」
「朝ごはんつくってください!」
「なに?全然意味がわからないんだけど」
「朝ごはんつくってください!」
そう言うと高笑いをしながら離れて行った。
その瞬間、ハッと意味がわかった。
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