その会社のある商業ビルに到着したのが約束の20分前。
階段の踊り場でスマホを触りながら時間をつぶす。
友人からLINEのメッセージが届いていたが、緊張していたせいか読む気にもならなかった。
面接時間の5分前になって、ようやくドアの前に立ちノックをすると、すぐに女性が出てきて中へ通された。
若い社員らしき人たちが4〜5名ほどの小さな事務所だったが、感じは悪くない。
数分後に外出先から戻ってきたばかりの、年の頃は40歳前後の社長らしき人が目の前に座った。
てきぱきと会社概要を説明を受けて、その後いきなりの英語のテストだって。
テストがあるなんて、聞いてないよ〜。
そう言えば、このブログを始めたころに勤めていた会社でも、入社する際の面接で、いきなり「今から英語で質問するので答えてください」と言われ大きく動揺したのを覚えている。
本番にめっぽう弱くビビりのため、事前の心構えがないと涼しい顔をキープできないではないか。
テストは、海外からのメールがプリントされた紙を黙読し、その和訳を口頭で伝えるというもの。
読んでみると、内容は大したことなかったが、わからない単語が1つあった。
なんだっけ…見たことあるけど意味が思い出せない…でも前後の内容からしてそれほど重要な単語ではないことはわかった。
仕方ないので、わからない単語があることを正直に伝えて、それを省いた内容を答えた。
すると、「大丈夫ですよ。実際はメールでのやりとりなので、単語を調べながらやってもらっても構いません」とのこと。
ホッと胸を撫で下ろした。
その後、面接での会話の中で、Photoshopが使えることと、カタログやチラシなどの制作経験もあるとわかると、「それは助かります!」と、なかなか良い反応。
募集内容には記載されていなかったが、ほぼ全員がプログラマーで、そうしたデザイン系の仕事のできる人が欲しいと思っていたらしい。
やった!ほぼ決定だな…と手ごたえがあった。
経理じゃないけど希望通りの年収だし、場所も以前の職場と比べると半分の距離。
娘の体調も安定してきたので、自分で通院できるよう病院から最寄りの駅までの道順も教えたので問題なかった。
「最後にもうひとつ質問していいですか?」
ドキッとした。
「前職の退職理由を教えてください」
正直に言った方がいいのか、それとも言わないで他の理由を言った方がいいのか、頭が混乱した。
でもこの人ならきっと理解してくれるだろう…咄嗟にそう判断し、前職を辞めた理由がパワハラであることを伝えた。
包み隠さず正直に言ったことが逆に評価されるのではないかと思った。
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結果は1週間後に連絡するとのことだった。
ハローワークのサイトを見ると、その会社の求人は見当たらなかったので決まったと思った。
しかし、7日経っても、8日経ってもその会社からの電話はかかってこず、10日後にようやく、電話ではなく封書が届いた。
開けると、私の履歴書とともに不採用通知が入っていた。
ショックだった。
やっぱり年齢か…でもハローワークから最初に連絡を入れてもらったときに年齢を伝えてあったのでそれが原因ではないはず。
やっぱり「パワハラ」のことを言ったのがいけなかったのか。
それから再びその会社の求人が出され、1カ月以上、消えることはなかった。
でも、もしも自分が経営者の立場なら、同じ選択をしたかもしれない。
パワハラの内容を細かく話す時間はなかったし、しても間違いなく自分寄りの話をしてしまうだろう。
そんな話を聞いたところで、私はただのクレーマーで、パワハラをされたと勝手に騒ぎ立てている可能性だってある。
面接で、自分に起きたことを正直に話すと採用されない。
それなら、嘘をつけばよかったのか?
何が正解なのかわからなくなった。
そして私は本当に就職困難者なんだと思った。
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