昔、行きつけのラーメン屋でひとり、朝まで飲んでいたことがあった。
１０年以上も通った店だったので、店の人と話しをしたり、そこで知り合った常連客とよくカウンターで盛り上がることがあった。
７年ほど前、いつものように飲んでいると、若い男の子が隣の席へ座ってきた。
どちらからどんなきっかけで話すようになったのかは忘れたが、いつの間にか昔っからの友達のように盛り上がり、店が閉まる朝方になっても話が尽きることはなかった。
｢カラオケに行こう！｣ということになり、フラフラになりながらふたりで歌いまくった。
彼は私より５歳ほど年下で、ミュージシャンを目指しており、十代のころに両親と妹を相次いで病気で亡くし、骨董品屋だか画廊だかをやっていた父が残した遺産は莫大で、家族の中でたったひとり残された彼は祖母とふたりで暮らしていた。
歌い疲れてカラオケ屋を出ると、もう朝日が昇っていた。
｢それじゃあね｣と一旦離れたが、
｢コーヒー一杯だけ付き合って｣と言う彼について、すぐ近くのモスバーガーへ行った。
コーヒーを買い、窓辺のカウンターと同じ高さのテーブルに向かい合わせに座ったが、もうそれほど話すこともなくボーっとしていたときだった。
いきなりドーンという音と共に彼が真後ろに倒れた。
慌てて駆け寄り彼の名前を呼ぶと、苦しそうな声で｢気分が悪い｣と言う。
よろよろしながら起き上がり私の手を引き離してトイレへ向かう彼の後姿を見送ると、すぐにまた倒れる音がした。
駆け寄ると、彼はトイレのドアのレバーを持ったまま痙攣し、すぐ後に体が硬直、目は白目だった。
｢救急車を呼んで下さい！｣
彼の家族が３人とも病気で亡くなったという話が頭の中を駆け巡る。
生まれて初めて乗った救急車が見知らぬ人の付き添いだなんて、もしものことがあったら、私はどうしたらいいんだろう。
病院に到着し、看護師さんに彼のことを聞かれるも、どこに住んでいるのか、国民健康保険なのか、一緒に住む彼の祖母の名前も電話番号さえもわからず途方に暮れた。
医者は何が原因で倒れたのかはわからず、とりあえず異常は見られないと言う。
間もなく彼は目を覚まし、そばで青ざめている私を見つけ不思議そうな顔をした。
何が起きたのか覚えていないらしい。
保険証を携帯していなかったため診療費を全額現金で支払う必要があったが、手持ちの現金が足りず私が１万数千円を出して、ふたり病院を出た。
駐車場に停めていた私の車で、彼を自宅まで送り届けると｢お金を返したいから｣と言うので次の約束をした。
それから１週間もしないうちにお金は確かに返してもらったのだが、そのときの記憶が私の頭の中には全くない。
途切れ途切れの記憶の中、彼が私に好意を持っていること、それと｢○月×日に△ＦＭ（ラジオ）に出るから！絶対聴いて！｣そう言われたのは覚えている。
福岡で頑張っているアマチュア･ミュージシャンということでゲスト出演するらしかった。
当日、放送時間の直前に、私はＢｅの父親と車の中で話しをしていた。
時間になると｢友達が出るから｣と、話をやめてラジオのボリュームを上げる。
おぉ…本当に出てる。
ＤＪとの数分間の会話の後、彼の曲が流れた。
カラオケはへたくそだったのに、自分で作った曲だからか妙に上手いのが意外だった。
それからもう一度だけ、彼に会った。
夜、突然電話で呼び出され、一緒にいた友達を連れて待ち合わせ場所のバーに行った。
彼の他に男性がふたり…ひとりは親戚の方で、聞いてもいないのに彼のことを色々と話してくれる。
彼は家族の保険金などを手にしたあと、金目当てに集まってきた人たちに多額の金を騙し取られたらしかった。
｢騙し取られるくらいなら、私に預けなさい！｣
冗談っぽく言ったのだが、半分は本気だったような気がする。
それから彼はミュージシャンとしての道を切り拓くために、上京した。
東京から何度か電話がかかってきていたが、間もなく私は妊娠し、彼からの電話にも出なくなり、電話番号も変えてしまった。
しかし今もなお私の携帯には彼の電話番号が残っている。
何度携帯を買い換えても番号を消す気にはなれなかった。
今も東京にいるんだろうか…
ミュージシャンにはなれたのかな…
年に一度程度、彼のことを思い出してはネットで名前を検索したりもする。
電話すれば早いのに、あの番号がもう使われていないような、そんな気がして、
唯一の接点を残しておきたくて未だに電話できずにいる私も、彼に恋をしていたのかもしれない。
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コメント
Kaoさんまったく今回の記事もドキドキしてしまいましたよ。
もういろいろな経験なさってて 本当に先を知りたい先を知りたいで
一人焦ってました。
急に倒れた青年 今も元気に音楽活動しているのか
私まで気になって仕方ありません。
らーめん屋でそんな出会いだあるなんて やっぱり
Kaoさんだからこそ！としか思えない。
Kaoさん美人だよな・・・・
（全然記事と関係ないですけどプロフのBeちゃんの後ろに立つ女性はもちろんKaoさんでしょ？いつもじっと見てしまうモチ子です。）
おおぉぉ～。
そっかー、うんうん。それは恋ですね。
彼は今どうしているのでしょうね･･･
もしかしてもしかすると、このブログを読んでいるかもしれません！
とにかく元気に音楽活動されてるといいですね。
ちょこっと恋ですねぇ～
私もkaoさんみたいに劇的な出会いではないけど
そういうのありますねー
未だにたまーにどうしてるのかなって思うひと。
それって相手が好意を持ってくれてるのはわかる
けど、そのときはこっちは？？？別の彼がいたり。
タイミングがあわない。
そして、深入りせず潔い関係で終わってるから
いい思い出になってるのよね。
私も探したいひとが二人いるのよね。
いまさら、探してどうするって思いながら・・・
＊モチ子さん＊
うふ・・ドキドキしてくれてありがとう。
なんだか何気ない出会いだったのだけど、カラオケを出たときは電話番号も聞いてなかったんですよね。
縁があるのかな～なんて思ったんですが、結局今会っていないということはなかったんですかね？
あの写真は私ですよ～～。
私はいつもカメラマンなので、ふたりで写真に収まることが少なくて、他に２人写ってたんだけど切り取りましたよ。
でも実際に見ると、大したことないんですよ～。
＊ぼのむちゃん＊
今、どうしてるんだろうね。
この文章を書いてるときはフルネームを公開しちゃおうかとも思ったんですが、なんとなく怖くて。
なんで怖いのかもわからないんだけどね。
やっぱり恋なのかしらん(。-_-。)ポッ
＊Rosaさん＊
タイミングが合わないというのは、結局、縁がなかったんでしょうね。
こんな風に数回しか会ってないから、なんとなく思い出が美化されるのだけど、もし付き合っていたら彼のことなんて思い出すことないと思います。
Rosaさん、いつかその忘れられないお二人の男性のことブログに書いて下さいね。
んまぁ、そんなことがあったのねー！
捨てて置けませんなー、らいちゃん。
（性格は肝っ玉母さん的やけど、美人だもんねー）
ホントに映画みたいやん、
私の携帯の中に残っている異性の電話番号なんて、電話することもないけど面倒臭くて消してないだけの、なーんの意味も思い出もない人ばっかりよ。
ちょっとうらやましいな。
ちょっとドキドキするいい話だねえ。
かれもどこかで頑張っているんだろうな、って思えることが支えになるね。
ほー、いいですねぇ、他人の恋愛話はいくつになっても大好きです。
特にうまくいかなかった恋愛の話。ひがみです。
ところで、電話してみたら？？けっこう男って引きずってますよ。
恋愛事は当事者でいれるうちが花ですよ。
ジジイとババアになったら、会ったら夢が壊れるので思い出だけでいいようになるんだから。
実感です。
kaoさん、こんにちわ。
キラキラ光り続ける素敵な思い出のお話、、胸がキュンとなりました。。。
ほんの僅かな時間、一緒にいただけでも、とても印象に残る人と、そうじゃない人っていますが、不思議ですよね。。人との出会いって。。
なんか、似たような人知ってるんだよなぁ～。
もしかして、、、いや、まさかね。
でも、ミュージシャン目指してて、上京・・・しかもばあちゃんと暮らしてたって私の仲間にいたんだけど・・まさかね。
まさかだよね。
でも、気になる・・・。
電話してみる？
kaoさんしきらんって言うなら、私がしたげるよ！（笑）
サモトラケのニケや、ミロのビーナスの『不完全の美』が『完全なる美』を超越したのと同じように、
http://www.greengrape.net/2000_romanesque/53_nike.JPG
http://www.greengrape.net/2000_romanesque/54_venus.JPG
二度と交差することのない２本の線が、ただ一度だけ交差した時の記憶を結晶化することってあると思います。 言っている意味、判ってもらえますか？
風邪をひきました。寒かったり暖かくなったりで油断しました。汗かいて深夜のサルサ場から帰宅したことも度々（汗） これで暫く禁サルサですね（涙）皆様もご用心！
こんにちは。
まるで、小説を読むように、ぐんぐん引き寄せられてしまいました。
唯一の接点を残したくて･･･。
あ～、なんか、すごく頷けるフレーズ。
今日は、思い出に浸ってしまいそうです(笑;)。
kaoさんが夢をよく見るﾀｲﾌﾟならこれからしばらく彼、
夢に出そうだわ。って、最近よく夢に出るのよね～
睡眠のたびに（昼寝もしてるし、汗)、blogのせいだわね。
Beちゃんにとってkaoさんはあくまでﾏﾏだから
そのBeちゃんが20すぎてからこのblog読んだら、
どう思うのかな～、なんて、kenkenと重ねてしまったわ。
＊hopeちゃん＊
＞性格は肝っ玉母さん的やけど、美人だもんねー
この｢肝っ玉母さん｣が余計やね。
なんだかさぁ、年々携帯の中の電話番号とか、年賀状の数とかが減ってるような気がするんだけど私だけかしら。
ひとりでいるのが好きなのに、意外と寂しがり屋やったりもするからかなぁ。
特にね、異性の数は確実に減ったわ・・・
やっぱちょっと寂しい(ーー;)
＊conちゃん＊
おっドキドキしてくれた？
相手のことを何も知らないからキレイ（？）な思い出になってるんだろうね。
元気にしてるのかなぁ。
＊kspawsさん＊
＞ジジイとババアになったら、会ったら夢が壊れるので思い出だけで
＞いいようになるんだから。
会ったら夢が壊れるってのは、もう既に私の年齢でも有り得ますよ。
いい印象をそのまま持っていて、やっと会えたと思ったらおでこが異様なほど広くなってたり・・・（笑）
だから、思い出は思い出のまま、心の中にしまってるのがイチバンだと思いますわ。
＊みいみいこさん＊
胸がキュンとなりました？(#^_^#)
キラキラなんてしてないんですけどね、白目だったし（笑）
そうそう、みいみいこさんのブログにお邪魔してご報告しようかと思ってたのでちょうど良かったです。
例の猫が壁にガリガリやるやつ、あれを防止できるスグレモノがあったんですよ！！
壁にペタッと貼る透明のビニールのような壁紙なんですけどね、１００均（ダイソー）にあったんです。
それを３枚ほど買ってきて、いつもガリガリやってるとこに貼ってみたら、あら不思議（ではないんだけど）全く猫がよりつかなくなりました。
要チェックですよ！！！
＊みっちゃん＊
いや～～ん(◎-◎;)!!
みっちゃん、知ってる人？？
すご～い恥ずかしい。
でも私、彼の顔って全く覚えてないんだよね。
私には彼がいたし、年下だったし、全く好みではなかったんだけど、なぜか電話番号は残ってる。
会ってない間に思い出がだんだんと美化されているような、いないような(^-^;
たぶん実際に会ってみたら、アレ？こんな人だったっけ？なんてことにもなりそうな気がするわ。
思いでは思い出のまま、棺おけまで持っていきます！
＊hiroshiさん＊
＞言っている意味、判ってもらえますか？
う～～ん、なんとなくわかるんですけど、｢じゃあ説明せい！｣と言われると無理だな・・・(^^;;
どちらもパリでお目にかかったことあるんですけどね。
＞二度と交差することのない２本の線が、
＞ただ一度だけ交差した時の記憶を結晶化することってあると・・・
そう、これってまさに確率的に言うと、天文学的なもの（大げさでしょうか・・）だと思います。
hiroshiさん、ＨＰをお持ちなんですね。
今度ゆっくりお邪魔しますね。
お大事に～。
＊nekoさん＊
＞今日は、思い出に浸ってしまいそうです(笑;)。
なんだか意味深な発言に、色々と想像を巡らせています(^_-)v
なんでもない、本当にちょっとした出来事だったんですけどね、なんとなく忘れられない・・・そんな思い出、誰もが持っているものだと思います。
実際にお付き合いしていたら、今頃さっぱりと彼のことなんか忘れてる、そんなものかもしれませんね。
＊kabasai*さん＊
いやぁ～kabasai*さん、目がハートになってるって！
たくさんの甘～い思い出をお持ちなんですのね(*^.^*)
子供にとって親の恋愛話を知るなんてこと、結構ショッキングなものかもしれないわ。
このブログ、いつかＢｅに見せてあげたいって思ってたんだけどさ、ヤバいとこは削除するべき？？？
↑
削除することないんじゃない？
だって、ママも恋愛してたんだあ～とか（←あたりまえだけど）
２０歳のＢｅには、同性として共感できるところもあるかもよ～
だからそういうのって隠さないで欲しいなあ～
まあ。私個人の意見だけどね（＾ｰ＾）
いや～しかし何となくわかるなあ～
やっぱプチ恋愛だったのかもね♪
電話はしないけど、電話番号を消す気にならないってのは、
消す気になるまでそのままでイイじゃん
（＾ｰ＾）素敵な電話番号だね
すんごい出遅れたｗ (＠＠;
kaoさんの気持ち、分かる気がするな～
別に無理やり所在を探したいとかじゃないんだよね。
なんとな～く、感じられる繋がりを絶ちたくないって感じかな。
結婚までたどり着いても恋愛にはいっこも至らなかったカップルもいれば、十年前に数回会っただけでも｢恋ｖ｣(^ｍ^
おいらが電話しちゃろっか？
＞いやぁ～kabasai*さん、目がハートになってるって！
＞たくさんの甘～い思い出をお持ちなんですのね(*^.^*)
↑
目がﾊｰﾄ？kaoさんの？
わたしにゃ苦い思い出ばかりっす。
＞ヤバいとこは削除するべき？？？
消しちゃだめ！！！すべてひっくるめてkaoさんだからさ。
人間的よ、ﾎﾝﾏ。Beちゃんは二十歳になってからね！
＊tomokerock＊
あ～～、やっぱＢｅが二十歳になるまで待つのか～～。
長いなぁ、あと１５年。
で、私はあとどれくらいブログを書き続けるんだろうか。
プチ恋愛か～・・・イマドキやね。
当時はなんともなかったんだけどさ、番号を消す理由が見つからないのよね。
彼が私の番号を知ってたらまた話は違うんだけどさ。
＊ななさん＊
あ～わかってもらえる？
嬉しいわ。
そう、そうなのよ。
なんとなくな繋がりを絶ちたくない・・・そう、そんな感じ。
だからってね、これが必ずほんとの恋愛に繋がるかどうかはまた別問題なんだよね。
この消えそうな関係がなんとも言えなくいい感じなのかもだわ。
＊月ちゃん＊
結構でございます。
あることないこと、色々言われそうで怖いわ・・・
＊kabasai*さん＊
違うよ～。
なんとなくね、kabasai*さんのコメント読んでたら
会った事ないんだけどさ、kabasai*さんのつぶらな瞳がいろんな出来事を思い出しながら遠くを見つめてる・・・そんな光景が目に浮かんだのよ。
ヤバいとこは消しちゃだめなんだね。
わかった。
kabasai*さんもだよ。